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【ひなびた温泉】ひなびた温泉日本一?千原湯谷湯治場 <島根・千原温泉>

場所
> 美郷町
【ひなびた温泉】ひなびた温泉日本一?千原湯谷湯治場 <島根・千原温泉>

どーですか!この胸キュンなひなびた浴室空間は!そして魅惑的な湯船と湯!写真に写っている方はたまたまご一緒した地元の方。ホラ、この笑顔が千原温泉の足元から湧きあがる極上湯の気持ちよさを物語っているでしょ?

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プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)

1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。

ガイドブックに載らないマイナー温泉が日本一に!

日本百名山ってありますよね?そ〜いうのを「ひなびた温泉」でできないものだろうかって思っていたんですよ。で、思い立ったら吉日ということで、百湯の「ひなびた温泉」を選んで、それをベスト100のランキング形式で紹介した温泉ガイドブック『日本百ひな泉』を出版したのが今から約3年前のこと。まぁ、百湯の「ひなびた温泉」を選んだといってもワタクシ一人で選んだのではないのですが。

実はワタクシ、ひなびた温泉研究所というコミュニティーを主宰している。でも、研究所といっても、ひなびた温泉好きが研究員という肩書きの元につながっているだけで、研究所があるわけでもないし、ましてやなにかを日々研究しているわけでもない。たまにオフ会とかするぐらいの、ひなびた温泉好きの集まりなわけだけど、そう、そのとき思ったんですね。そっか、研究員で百湯選んで人気投票してベスト100を決めちゃえばいいんだって。みんな3度のメシより温泉が好きなマニアばかりだから、とっても説得力のある温泉ガイドブックになりそうだ、と。

かくして『日本百ひな泉』は出版され、ありがたいことに版も重ねてご好評いただいております。さて、じゃあ、どこの温泉がひなびた温泉日本一に選ばれたのか?気になりますよね?え〜、選ばれたのは島根県の千原(ちはら)温泉という温泉。え?聞いたことがないって?そりゃあそうでしょう、ガイドブックにも載らないような知る人ぞ知る温泉なのだから。

長らく門を閉ざしてきた名湯

島根県の三瓶山(さんべさん)の麓に湧く千原温泉の創業は1885(明治18)年と古い。しかし、長らく療養専門の湯治宿として一般の入浴客には門を閉ざしてきたのでその存在はあまり知られていなかったが、戦後、広島の原爆被災者がここに通って傷を治したということで山陰地方での評判は高まっていた。そんな千原温泉が一般入浴客に開放されたのは昭和の終わり頃だという。

「ここら辺の人はねぇ、千原温泉の源泉を一升瓶に詰めて常備しているんだよね」

そう語るのは地元のタクシーの運転手のおじさん。ボクがはじめて千原温泉に訪れたときのことだ

「なるほど〜、入浴剤みたいな感じで使っているんですかね?」

「いやいや、そうじゃなくって、傷薬として常備してるのよ」

「ええ? 傷薬としてですか!」

「そう、源泉を塗ると傷の治りが早くなるんだってね。殺菌力があるんだろうねぇ」

それを聞いて期待感が爆上がりしたのは言うまでもない。そしてタクシーが到着したのは山奥のひなびた民家のような温泉施設だった。

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人里離れた三瓶山(さんべさん)の山あいにひっそりと立つ味わい深い木造建築の千原温泉。この浮世離れした感じもたまらないのだ

足元から湧き上がる鮮度抜群の湯

受付で入浴料500円を払って、案内された浴室は昔の湯治場の浴室がタイムスリップして現代に現れたような激渋空間だった。そこに大人4人入ればいっぱいになるような湯船があって、いかにも療養泉といった感じのうぐいす色の湯がたゆたっていた。

ではさっそくと、湯につかる。体温よりも温度が低いぬるい湯。ほどなくするとじんわりと湯の成分が肌をやさしく攻めてくる。いい!そして、湯と一緒に炭酸ガスの泡がぷくぷくと上がってきて身体をくすぐる。たまらなく、いい!そう、ココは温泉が湧き出るその上に湯船を設置した、全国でも貴重な足元湧出湯だったりもする。いやいや、貴重な足元湧出湯の中でもカクベツな足元湧出湯といっていいだろう。この泡がぷくぷくと絶え間なく湧き上がってくる湯に身をゆだねながら20分も30分もつかっていると、なんていうか、ああ、今、オレは湧き上がる大地の恵みに直接触れているんだなぁっていう不思議でダイナミックな感覚に包まれてくるのだ。心地良いぬる湯に長湯しながら、こんな山間の辺鄙(へんぴ)なところに、こんな温泉があったんだなぁ〜っと感動したことを今でもありありと思い出せる。

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ぬる湯なので冬はここに温かい上がり湯が用意されている

と、まぁ、場所が場所だけに気軽に行けるところじゃないけれども、みなさんも、ぜひとも千原温泉の湯につかって、温泉の奥深さを感じてもらいたい。

それにしても千原温泉のようなマイナーな温泉を人気投票で「ひなびた温泉日本一」に選んでしまう、我がひなびた温泉研究所のマニアック度に改めて敬意を表したいなぁ。ひなびた温泉の魅力は、ひなびた風情はもちろんのこと、商売的に毒されていないところにもある。素晴らしい極上湯なのに数百円で入れる無人の浴場だったりして、まったくガメつくない。アッケラカンとしている。千原温泉もまさにそーいう温泉なのだ。

ちなみに、ひなびた温泉研究所では『日本百ひな泉』のようなマニアックな温泉ガイドブックづくりを今も続けていて、2025年1月にはドバドバの源泉かけ流しばかりを紹介した『ドバドバ温泉ドバイブル』という本を出します。研究員も随時募集しているので、ご興味のある方はぜひぜひ「ひなびた温泉研究所」でネット検索してみてくださいな。一緒につながりましょう!

文・写真/岩本 薫

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ドバドバ温泉ドバイブル表紙

♨今月のひなびた温泉

千原湯谷湯治場 (ちはらゆんだにとうじば)<島根・千原温泉>

◎営業:8時〜最終受付16時(4月〜10月は〜17時)/木曜休
◎料金:500円、部屋休憩1200円
◎泉質:ナトリウムー塩化物・硫酸塩泉
◎アクセス:山陰線大田市駅からタクシー50分/中国道三次ICから50キロ、または浜田道大朝ICから56キロ
◎住所:島根県美郷町千原1070
◎TEL:0855-76-0334
詳細は👉こちら

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2025年2月号)
(Web掲載:2025年5月18日)


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